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青い角砂糖


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2012-06-29 汚れたガスコンロ
2012-06-29 異国
2012-06-27 遠い夏の日
2012-05-30 告白 (夢を見るということ、あるいは落雷)
2005-04-13 ロードムーヴィー
2004-07-28 夏のかえりみち
2004-07-03 流れゆく
2004-04-12 夜明けの宝石
2004-04-12 泥の中の硝子
2004-04-12


2012-06-29 汚れたガスコンロ

丸七年もの間
俺が詩を書かなかった訳は
悲しくなるほどに
即物的なことなんだ。


コンロのまわりに吹きこぼれ
乾いて固まったインスタントの麺のように
どうしようもなく
淋しい。


やり残した宿題
青春と呼んでしまえばそれまでの
抜けない棘
俺が
俺でなければ良かったの?


いつか
君に逢いたいと
それだけを理由に
君に逢いに行ってもいいか

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2012-06-29 異国

考えてはいけないことがある
眠れなくなってしまうから
考えてはいけないことがある
「わたし」が変わってしまうから

陽炎に恋していると知っている
けれど
あなたの発する言葉は
あなたそのもの

誰も触れることのない
わたしの玻璃玉に
あなたの残した文字だけが触れ
そして響く、……

あなたはわたしの選べなかった未来
テーブルの上の塵にさえ輝きが宿るような瞬間を
一緒に笑いさざめき過ごした、
けれど、それを超える夜と昼を
あの日わたしが願っていたなら
それは叶った?

あなたの髪を揺らす異国の風
わたしはそれを見ている
ざらついた砂埃も、蒸し暑い夕暮れも
わたしの中には無く、あなたの中に在る

汚れたところだって
見なかったわけじゃないのに
どうしてこんなに
好きでいられるの

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2012-06-27 遠い夏の日

あなたが作ってくれた昼食の味
壁にかけてあるベースの弦
半分開いたドアからのぞく寝室
紺色のスーツ
少し凝ったトイレの照明
玄関に飾られたLPレコード
あなたが撮った写真
引き出しの中の異国のお金をじゃらじゃらと取り出して
ちょっとそこまでおつかいに行くみたいに
ものの5分で支度して
ほな、いこか って

あなたが好きということは
あなたの生活が好きということでした。

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2012-05-30 告白 (夢を見るということ、あるいは落雷)

言える時が来たら言おう。
どんな言葉になるかはわからないけれど
誰に遮られることもなく
あなたはそれを聞いてくれるだろう。


言える時が来たら言おう。
しかしおそらくはその前に、
意識のリボンはほどけてしまう。
もしくはあなたか私の命が
それより先に消えるだろう。


言える時が来たら言うよ。
あの夏の日、あなたと私は、
同じ閃光を見、一瞬の空白を穿つような雷鳴を聞いた。
この広い宇宙の中で、あの狭い部屋の中で。


どうかお願い、
私が死んだらあなたは
その記憶の限りで私を思い出して。
あなたが死ななくても、私は
あなたのことを思い出すけれど。

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2005-04-13 ロードムーヴィー

キャンピングカーのバックシート
君は寝転んで
くたびれたペーパーバック 読んでる
運転に疲れたら 俺は車を止めて
ハンドルに肘と顎を乗せて一休み

君は砂漠の彼方へ歩いていく
俺は古いキャメラを回す
小さな小さな 点になる君
それを眺めながら しばらく うとうとしていよう

目がさめれば 君はいつのまにかまた
バックシートでペーパーバック
砂漠のどこで見つけてきたのか
グラスに挿した 白い花

夕暮れ時には
黄金色から始まるグラデーションが
フロントグラスに映って見事に輝く
暑い昼の余韻を残すドアにもたれて ラジオを聞けば
懐かしい曲が耳に流れる

澄んだ音をたてて降ってきそうな満天の星の下
俺は緑色の壜を空っぽにして
歌まで歌って機嫌が良いけど
君はいつも焚火をつついて
火の粉が爆ぜるのをじっと見ている

ねえ 俺たちは どこへ行こうというわけじゃない
窓の外に広がる景色は どこまで行っても現実で
目の前にいる君さえ どこまで触れても現実で
本当の自由と非現実は 自分の内側にしかないってことくらい
とっくに知ってる
だから俺はキャメラを回す
空と、砂漠と、君の花ばかりが写った
とびきり贅沢でとびきり退屈なフィルムを撮るために

一瞬ごとに 醜く 美しく 萎れてゆくその姿を
それより美しくもなく 醜くもなく
ただ、そのままの形で焼きつけたい
所有欲にも似た気持ちのままに

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2004-07-28 夏のかえりみち

白い腹を見せ
手足を縮こまらせて
道端に落ちている
蝉の死に殻

かさかさと乾いた
奇怪なブローチ
のようなそれに
魂が宿っていた
なんて信じられる?

アパートの駐車場には
佐世保ナンバーの古いセダン
氷に苺シロップをかけたみたい
百日紅の花が咲いている

咲いている
咲いている
咲いている

ゆっくりと横切って振り返る 猫

拾い上げることも
踏みつぶすことも
せずに
横目で眺める
蝉のしにがら

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2004-07-03 流れゆく

夏の午後 アスファルトの上で
だらしない小さな蛇のような靴紐を結び直している間に
何かがおまえの頭上をかすめてゆく
手を伸ばすどころか それを見逃したことにすら気付かない
おまえのとらえたものはただ、その翳だけ

おまえの感じる世界と 世界を感じるおまえを
言葉という舟に乗せて
その舳先を離してしまえ
どうせ流れてゆくことに変わりはない

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2004-04-12 夜明けの宝石

 明け方が好きだ。今の季節で言えば、新聞配達のバイクがせわしい音を立てて走りまわる少し前。それもできれば晴れている日より、曇りや雨の夜明けがいい。

 夜が地平線の太陽にそっと押しやられる時、ひっそりした静かな青が世界に満ちる。暗い水族館の中に光る水槽のような青、憂鬱ではない、センチメンタルでもない、けれどもこのうえなく詩的な青。部屋の中のすべてのものはその青に浸される。窓の桟はくっきりとして影絵のようになる。水底。しらじらしい朝の光があたりを曝け出してしまうまで、それをかき乱すものは何もない。無神経な朝が夜を完全に追い払うまでは、世界には足りないものも、過剰なものも、何ひとつない。
 そして私は、身じろぎもせず沈んで染まる。

 時には、小さな窓の向こう、朝焼けをてりかえすマンションの壁が見える。温かみのある、やわらかく幻想的なピンク色。その幸福な色を見ている。失われていくその時間を見ている。
 この宝石みたいな一時が、夜が明けて朝が訪れるたび、つねに世界に存在することを考える。一日に一度、私自身がいくつかのチャンネルを合わせさえすれば、必ずそこにこの宝石はある。そして私は、自分の内側でもなく外側でもないところに存在するその宝石のことを、横たわった私の上を滑り落ちていった数え切れない宝石のことを、考える。

(2001年6月4日の日記より)

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2004-04-12 泥の中の硝子

 そこにはヘドロが溜まっている。腐ってぬめぬめとする泥、得体の知れない黒に染まった砂、そういった悪臭を放つもので満ち溢れている。汚くておぞましいが、同時に温く安楽なところだ。
 その泥を浚う時、ごくたまにだが、小さな硝子の破片にゆきあたることがある。小さくとも泥の中のその刃は鋭い。柔らかく薄い手のひらの皮膚を必ずと言っていいほど突き破り、滲む血と鋭利な痛みをそこにもたらす。
 それは砂金やダイヤモンドのように美しくはない。高価でもない。どこにでもある、ただの硝子だ。……けれどもそれは光を受けて輝く。高貴な輝きではなくとも、確かに輝く。

 これを失くしたら終わりだ。

 金色の朝焼けの中で、泥にまみれた掌の、肉に埋まったその小さな硝子片を見つめている。いつまでも、いつまでも。

(2001年6月13日の日記より)

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2004-04-12 ※

『時計の音』は未完にて終了。

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